佐々木の主張

佐々木賢治の主張を、皆様にお伝えいたします。

ロシアプーチン大統領訪問と日ロ外交 2000年9月5日

現実外交の厳しさと日本外交の対応の甘さに常々不愉快な思いを募らせているが、今回のプーチン大統領訪日とその前後の日ロ外交について私見を呈したい。

先ず、私が爽快な気持ちにさせられた記事から話を始めたい。8月29日火曜日朝刊の日本経済新聞「経済教室」(31頁)の国際日本文化センター教授、木村汎氏の寄稿の内容を是非一読戴きたい。その中で木村氏は、「日本の一部の人々が抱きがちな一知半解の見方を紹介し、反論を加えたい。」と述べ、「いずれも、外交交渉一般やロシア的発想についての皮相な理解にもとづく。」として5点に要約し、逐一反論を加えておられる。その論旨の簡潔、明晰さに、当日8月29日の名古屋の残暑にもかかわらず、実に爽快さを感じた次第です。

(関心のある方は自分で見つけて読んで下さい。それだけの値打ちがあります。引用の便を図る程、当方も暇ではありませんので悪しからず。)

さて、木村氏も指摘しておられる事であるが日本の外交、政府当局と今回のロシア当局の外交交渉における駆引きの違いは、9月3日直ちに現実となりました。同行のイワノフ外相は早速同日夜、都内のホテルで記者会見し「領土問題で大きな進展がないことは日本側も理解しているはずだ」と述べたと報道された。

これで少なくとも今回の会談においては、領土問題自体存在しない、あるいは議題に上らないとの前提条件を設定した感がある。換言すればどれだけの経済支援を日本側が行うかだけが会談議題となったと見て良い。これからの展開は、絶えず人質(強奪差し押さえ物件と言うべきか)としての北方領土を金づるとして使うために決して手放さず、絶えず期待だけを抱かせる戦略を取る事は火を見るよりも明確な事である。

この前提に立って事態を見ると、半可通の評論家より、簡単に実状が透けて見えることになる。例えば日本の政府関係者が、プーチン大統領訪日前に早々と領土問題にはこだわらずと発表し、方やロシア側は何度となく(大統領の日本出発前、前述の外相発言等)領土問題の進展無しを繰り返しているのは何故か? ロシア側にはこの問題突きつけられると困る、即ち自らの非がある事を自覚しており、出来るだけ高く売りつけるための値踏みも含めた先制パンチである。方やナイーブな日本側は援助をしたいがさりとて、日本の国民世論は怖く、そのための世論工作と見るべきである。(因みにナイーブ(Naive)とは未熟、無知、バカを意味する。)

いずれも政治家であるので、選挙に例えて解説したい。例えば選挙前に時の与党、首相、その他の主流派が与党の当選ラインを低く読み、責任回避を行うににている。それに対して野党党首が与党の主流派の当選予想ラインよりも更に低い数字を与党の勝敗ラインとして敵ながら天晴れと事前に褒めるに等しい行為である。いずれの党の責任者も自分達が勝ったと言うためである。(誤解の内容に、付言すれば竹下元首相で有名になった褒め殺しではない。敢えていえばかってままあったとされる、自社馴れ合いの永田劇場の猿芝居である。)

千島樺太交換条約、その他の諸条約、更にはサンフランシスコ条約、どれを取ってみてもロシア側に非があり、占拠し続けている現状にもかかわらず、人道の名の下に献金続けているのはを無知を通り越して「バカ」である。

しかし一方的に悲観的になったり、悲憤慷慨される必要はないと私は思っている。現在ロシアにおいては若干の変化が生じているとおもえるからである。その一例を挙げれば、今回の原潜事故に対するロシア政府の対応とロシア国民世論の反応である。

国家の最も重要な国防上の機密よりも、その乗員の安全を国民は求め、ロシア政府・軍がそれに妥協せざるを得なかった事実である。今回の原子力潜水艦「クルクス」の事故は8月10日ー13日迄の日程でバレンツ海でのロシア北方艦隊の軍事演習中の事故である。元々軍隊の特性からしても通常はどの国であれ、外国の、それも非同盟国の救助を仰ぐと言ったことは本来あり得ないといっても過言ではない。(いろいろな意見はあるが、米国が果たして逆の場合、最新兵器の乗組員に対する救助を求めるか?)

この現実が、何を物語るか? 現在のロシアは内政優先、国家経済の建て直し、国民福祉優先の政策課題を取らざるを得ない状況にある事を如実に物語っているのではないか? 事実かってロシアはアラスカを米国に売却し、ナポレオンも米国に北米大陸の当時のフランス領を売却した。ロシアの体制の立て直しにどれだけの時間と外国資本が必要であるか?これはロシア政府、国民が自ら考えるべき課題である。

米欧諸国はそう易々とは何時までも無償援助を実施するはずもない。海外資本の導入も現在のロシアの体制、欧米の資本の論理を考慮するとき自ずから限界がある。我々日本は、ロシアが自らの必要性と日本の価値について目覚める迄、ひたすら待つべきである。その間ロシアに対する、経済援助などは以ての外であり、サンフランシスコ条約に調印していないロシア(旧ソ連)には本来南樺太、千島列島にすら占有権はない事を自覚させべるきである。

樺太、シベリア、千島列島を開発するだけの経済力はロシアにはなく、仮に近い将来経済的改善が進むとしても、ロシアの政策的優先課題は西にあり、彼等にとってお荷物に過ぎない事を我々は理解すべきである。彼等が国後はじめ諸地域を自然の宝庫としているのは、環境意識が高いためではない(一部NHKの番組ではその様に伝えられているが。)。この事は彼等の政策優先課題である、ロシア西部地方の環境対策を見れば自明のことである。単に軍、警察が駐屯し一般人の自由な進入を許しておらず、又国内経済的に見るとき地域開発がなり立たないだけの事である。幸い、この地域(日本の正当なる領土であり現在不法占拠されている地域)は日本に近接しているだけでなく、日本以外にその近くに経済力のある国もなく、ロシアにとっては経済的負担になっている地域である。それにもかかわらず人と武器迄持参してタダで預かっていてくれると思い寝て待つがよい。

ロシアにとっての、現状唯一のこの地域の存在価値は、日本の金づるだけである事を日本は自覚すべきである。勿論、未だにロシアにとってこの地域が軍事的価値が若干は残っているであろうが、冷戦構造崩壊、ソビエト連邦崩壊、統一ヨーロッパ(EU)の成立を踏まえる時、大いに環境は変わっているのである。

それにつけても残念なのは日本のこういった国際問題に対する意識の低さである。これまで、誰一人としてシベリア抑留、強制労働問題について賠償請求裁判を起こした話を聞かない。日ソ中立条約をの取り決めを破り、更に日本の8月15日の降伏後も武力侵略を続けた事について国家賠償を日本としては請求すべきであると私などは思っている。和平論者は沢山いるが、軍事的恫喝、侵略によって獲得した地域を餌に援助を引き出し続けている国に対してこういった人々が抗議の声を挙げた事を聞いた事がない。

SIAでは絶えずいろいろな諸問題について専門家の講演(21世紀問題研究会、名古屋MBAフォーラム)、更には世界各国の人々(学者、政治家、ビジネスマン、留学生を含め既にSIA国際フォーラムで既に50カ国の人々)が200回を越える講演(SIA国際フォーラム)会を毎週主催し、又時事英語討論を毎週、既に300回を越えて開催しているが、特に日本の人々の北方領土問題の認識不足にははなはだ驚かされる。

今回の契機が日本の国際外交の理解の一助となれば幸いです。ご参考迄に申せばSIAでは地下鉄のウオータークーラーの設置に協力して行っている広告では、日本の地図を入れていますが、当然国後、択捉、歯舞色丹はその地図の中に入れております。ご意見がありましたらどうぞ。その際はSIA評論2K0905と銘打って下さい。

佐々木

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