佐々木の主張

佐々木賢治の主張を、皆様にお伝えいたします。

佐々木の主張 SIA評論より

日本の政治とイラク人質、政治家の年金未払い、北朝鮮拉致被害者問題 2004年5月20日

この2ヶ月間、21世紀の日本の政治を考えさせる事件が立て続けに起きた。イラクでの日本人拘束問題。国会議員の年金未払い問題、明後日5月22日に小泉首相が自ら再訪問する北朝鮮、北朝鮮の日本人拉致問題である。

この3つの事件・問題は一見するとそれぞれ独立した、個別の問題である。しかし政治的に見る時この3つには共通する現代社会、日本社会の問題点が隠されている。

重要な問題が幾つかあるがその一つを取り上げると「マスメディアを通じた政治のワイドショウ、ビジネスショウ化」である。国際政治、外交における国家間、集団間の利害対立を有利に進めるため、各勢力は冷酷な打算でマスメディアを利用している。国内政治においても大衆に如何に評価されるかを計算しつくした政治的演出がなされている。この現象自体はある意味当然の事であるが、この事に国民が気づかず日本の政治を歪め、結果として衆愚政治に陥るとしたら警鐘を鳴らす必要がある。国民の安全、国益、年金制度に対する正しい理解とはかけ離れた議論が横行する危険があるからである。

イラクのテロリスト集団による3人の日本人人質問題は、アルジャジーラテレビを舞台としてテレビで幕が開き、3人の人質が無事解放され、開放された人質2人の4月30日の演出された記者会見でひとまず幕を閉じた。もっとも日本政府が密かにテロリストに多額の資金を提供したとの噂は絶えない。政治家の年金未納問題はテレビコマーシャルに登場したある女優の年金未納問題で幕が開き、自民党現職閣僚の年金未払いの発覚、福田官房長官の未払い発覚と辞任、年金未払いを糾弾して来た民主党管代表の国民年金未払いの発覚と代表辞任、社民党の看板である土井氏の未払い、公明党執行部3役の未払い、更には小泉首相、民主党の小沢氏の未払い問題。国民が気づいて見ると共産党を除く、すべての政党幹部が何等かの形で国民年金未納者であった。

イラクで拉致された3人の日本人の自己責任論はさておき、拘束された3人はある意味で所詮はアマチュアの甘えであると見れば黙認はできるが、本来国政のプロである各政党幹部が年金未払い問題に気づかず、あるいは隠蔽しつつ国会で論戦を重ねていたとすれば、これは単なる自己責任論では済まない。政治家の選挙公約、弁舌と実際の政治家の見識、本音、行動様式のギャップには信じ難いものがあるといわざるを得ない。

これ迄の日本の各政党の選挙公約、主張は何であったのかと思わずため息が出る。年金問題も社会福祉問題も所詮は、国民の不安を煽り、その不安心理を食い物にして得票を貪る単なる選挙戦術に過ぎなかった様である。大衆の人気を煽るマッチポンプである。衆愚政治の典型を見る思いである。

政界が衆愚政治の表舞台であるとすれば、その幕間講演を演じてきたのがマスメディアである。筑紫哲也氏を初めとする、日頃国民大衆を睥睨するが如きニュース報道姿勢、ニュース報道という名の下に滔々と自らの「見識」を国民の意見を代弁すると称して語り、誇ってきたニュース番組の司会者達も未払であった。

マスメディアを通じた政治のワイドショウ化、ショウビジネス化の当然の帰結は政治家、マスメディアを含めた「変わり身の早さ」、「分析力の欠如」、「政治日程を睨んだ打算」である。

5月22日の小泉首相のピョンヤン訪問を前に、既に5月18日外務省、防衛庁、警察庁などの担当者で構成される57名の先遣隊が北朝鮮に入っている。又5月22日には帰国と同時に拉致被害者家族に対する説明も首相自ら行う意向が既に示されている。5月23日以降は6月24日に告示される参議院選挙に向けた選挙戦一色となるであろう。ここに、一抹の不安がある。外交とは所詮お互いの妥協の産物である。参議院選挙告示日を目前にした小泉首相に取ってこれ程の政治的表舞台はない。全体主義、軍国主義国家にとって、交渉相手国の政治日程は時として最高の交渉カードである。自国民を恐怖政治の下に押さえ込み独裁を布いている金正日総書記、北朝鮮にとって日米両国の世論、政治日程を考慮しつつ最善の妥協時期、妥協策を求めているのが現状であろう。ソビエトの極東ハバロフスクで1942年2月16日に生まれたといわれる金正日氏も、様々な出自にまつわる伝説に彩られてはいるが既に62歳。自らが中国を秘密訪問し帰国したとされる日4月22日、その使用鉄道沿線で起こった北朝鮮北西部の竜川(リヨンチョン)での列車爆発事故は彼に相当な衝撃を与えたはずであり、イラク問題に揺れる米国、参議院選挙を目前に控えた日本と秘密交渉を行うにはこれ以上ないタイミングである。

今回の全てに準備され、演出された小泉首相の平壌(ピョンヤン)訪問で北朝鮮は何を狙い、又日米間には通常報道されている意外の何等かの秘密打ち合わせがなされているのか? はなはだ興味の湧くところである。外交とはお互いの当事者が相手国はもとより、国内関係者にも手の内を明かさないものである。しかし筆者が着目している周知になっている事実が3つ。

  1. 4月22日の「北朝鮮北西部の竜川(リヨンチョン)で起こった列車爆発事故」は私の知る限り日本政府も米国政府も事故直後一切情報を政府筋からは流さなかった事であり、しかも韓国、中国のメディアの発表、それに引き続く北朝鮮の朝鮮中央通信が被害状況を伝えるやいなや日米共に人道支援物資提供を速やかに申し出ている事。
  2. 米国が韓国政府に対して韓国駐留米軍のイラク派遣の打診、即ち韓国駐留米軍の縮小。
  3. 政治的リスクを取って行った山崎氏、平沢氏の北朝鮮側との極秘会談。

以上の3点である。

日本国民を拉致し、殺害した全体主義国家に二度までも被害者側の国家の指導者が訪問しなければならないとすると、国家的威信は地に落ちたと見る見方も一方にある。イラクの日本人人質問題が結果として今回の動きを側面から促したとも思える。私は世論とマスメディアを通じた政治のショウビジネス化が進展しており、結果として国益を犠牲にするのではないかと危惧している。今日本に必要なのは、テロ国家、テロ集団、不法集団に対して「国民の命を守る強さとしたたかさを持った国家」であり、美辞麗句を並べる政治家ではなく「次世代の日本人に責任を持つ政治家」であると信じるからである。

その意味で痛切な思いに駆られるのが北朝鮮拉致被害者、横田めぐみ(13歳で拉致された)さんの家族の日本政府への要望書である。「横田めぐみさんの娘、キム・ヘギョンさん(16歳)の訪日拒否要望書」である。昨夜5月19日、私もテレビニュースを通じて横田拓也(めぐみさんの弟)さんが代弁する家族の意向、「仮に首脳会談でヘギョンさんの訪日が北朝鮮から打診されても日本政府は拒否して欲しい」を伺った。そこには、自らの家族を取り戻すために、孤独な戦いを強いられた家族の願いがあった。日本国内で国民が拉致されても法的手段を講じることなく、救済できないような国家は国家の体をなしていないと私は思う。今回のこの横田家の意向、声明が、喜びに湧く一部拉致被害者家族のみならず、多くの未確認拉致被害者の救済に繋がる事を願う者である。

(文責 佐々木賢治)

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